シフトは、組めている。
店も回っている。
売上も、スタッフ数も、致命的な問題はない。
それなのに、シフトを作るたびに、心だけが削られていく。
誰かに無理をさせた気がして、
また同じ人に頼ってしまった気がして、
完成したシフト表を見ても、どこか後味が悪い。
「人が足りないわけじゃないんだけどね」
そう言いながら、なぜか一番しんどいのがシフト作成。
もしあなたが、
頼みやすいスタッフの顔が真っ先に浮かぶなら。
断られない人に、つい声をかけてしまうなら。
その人が、何も言わないことに、どこか不安を感じているなら。
それは、あなたのやり方が間違っているからではありません。
むしろ、ちゃんと人を見ているからこそ、起きている問題です。
ただ一つだけ、はっきりしていることがあります。
この状態は、長くは続かない。
この記事は、
「人手不足でもないのに、なぜシフトが一番つらいのか」
その理由を、感情論ではなく構造として言語化するためのものです。
誰かを悪者にする話でも、
厳しいルールを押しつける話でもありません。
善意と我慢で成り立っている運営から、
店長が少しだけ楽になるための現実的な話です。
この記事では、
善意や我慢に頼らず、店長が悪者にならずにシフトを回すための具体的な考え方と行動を、順を追って書いています。
人は足りているのに、なぜシフトが一番つらい仕事になるのか
飲食店の仕事の中で、シフト作成ほど気力を削られる業務はない、そう感じている店長は少なくないと思います。
仕込みや発注、接客、数字の管理よりも、なぜかシフトだけが異様に重たい。しかも不思議なことに、人手不足ではない店ほど、そのしんどさは増していきます。
スタッフの人数は足りている。採用も回っている。
それなのに、いざシフトを組もうとすると、特定の日に休み希望が集中する。
全員の希望を叶えようとすれば店が回らず、誰かに出勤をお願いしなければならない。その瞬間から、シフト作成は単なる作業ではなく、人の感情を扱う仕事に変わります。
「この日は厳しいから、誰か出られないかな」
その一言を誰に投げるかで、頭の中は一気に複雑になります。
この人は最近よく出てくれているな、とか。
この人にまた頼んだら、さすがにきついかな、とか。
あの人はきっと断るだろうな、とか。
シフト表を見ているはずなのに、実際に見ているのはスタッフ一人ひとりの顔や性格、これまでのやり取りです。
その結果、決断の基準がどんどん曖昧になっていきます。
一応、シフトは完成します。
店も回ります。
外から見れば、何の問題もないように見えるでしょう。
それでも、作り終えた後に残るのは、妙な疲労感です。
誰かに無理をさせた気がする。
またあの人に頼ってしまった気がする。
本当は平等じゃない判断をしたんじゃないか、という小さな罪悪感。
この感覚は、忙しいから生まれるわけでも、人が足りないから生まれるわけでもありません。
むしろ、「なんとか回っている」からこそ、誰にも表に出ないまま積み重なっていきます。
シフトがつらい理由は、決してスキル不足ではありません。
優しすぎるからでも、覚悟が足りないからでもない。
問題なのは、シフトが仕組みではなく、人の善意と我慢で成立していることです。
そしてその調整役を、店長一人が引き受けていることです。
まだこの段階では、はっきりしたトラブルは起きていません。
辞める人もいないかもしれません。
表面的には、何も問題がない。
だからこそ、この違和感は見過ごされやすい。
そして気づいたときには、頼り続けていた誰かが限界を迎えていることも少なくありません。
頼みやすい人が壊れていく構造
シフトが成り立っている店ほど、実はごく一部の人に支えられていることがあります。
それはスキルが高い人かもしれませんし、勤務歴が長い人かもしれません。
でも多くの場合、共通しているのは「お願いしたら断らない人」です。
忙しい日、休み希望が重なった日、急な欠勤が出た日。
店長が真っ先に思い浮かべるのは、「この人なら出てくれるかもしれない」という顔です。
その判断は合理的でもあり、現実的でもあります。実際、その人に頼めば店は回ります。
問題は、その選択が一度きりでは終わらないことです。
一度頼んで出てくれた人は、次も頼られます。
二度頼って断られなければ、三度目も声がかかります。
そのうち、シフトが足りないときの“前提”になっていきます。
本人は何も言いません。
不満も弱音も出さない。
「大丈夫です」「出られますよ」と、いつも同じ返事をします。
だからこそ、店はその人の限界に気づけません。
いや、正確に言えば、店長はどこかで気づいています。
気づいているけれど、代わりの選択肢がないのです。
自分優先で休みを取る人は、相変わらず休みます。
ルール上は問題ない。希望を出しているだけです。
一方で、協力的な人が空白を埋め続ける。
この構造の怖さは、表面上とても平和に見えるところにあります。
文句は出ない。揉め事も起きない。
だから「うまくいっている店」だと錯覚してしまう。
でも、内部では確実に偏りが生まれています。
負担の偏り。
我慢の偏り。
期待される役割の偏り。
そしてその偏りは、いずれ必ず形になって表れます。
ある日突然、辞めると言われる。
理由は「家庭の事情」や「次のステップ」と言われるかもしれません。
本音は語られないままです。
あるいは、辞めずに残ったとしても、明らかに変わります。
以前ほど周囲を気にしなくなる。
仕事の質が落ちる。
笑顔が減る。
店長はその変化を見て、初めて「あのとき無理をさせすぎたかもしれない」と思います。
でも、その時点ではもう遅いことが多い。
ここで重要なのは、
この問題が「その人が優しすぎたから」起きたわけではない、という点です。
そして「店長が頼りすぎたから」だけでもありません。
善意がある人ほど損をする。
責任感がある人ほど背負わされる。
何も言わない人ほど、限界まで使われる。
そういう構造の中で、シフトは静かに回っています。
ルールを作っても解決しない理由
ここまで読んで、「だったら明確なルールを作ればいいのでは」と感じた人もいると思います。
実際、多くの店がその方向に進もうとします。
希望休は月◯日まで。
人が足りない日は誰か必ず出勤。
全員平等に協力すること。
紙に書けば、とても正しい。
一見すると、問題は解決しそうに見えます。
けれど現場では、この「正しいルール」がほとんど機能しません。
理由は単純で、人はルール通りには動かないからです。
自分優先で動く人は、ルールの中で最も得をする動きを見つけます。
最低限は守るけれど、それ以上は踏み込まない。
協力が必要な場面でも、「その日は無理です」と静かに線を引く。
一方で、協力的な人はどうなるか。
ルールがあっても、「困っているなら」と動いてしまいます。
結果として、また同じ人が埋め合わせをする。
ルールは全員に同じようにかかっているはずなのに、
実際の負担は相変わらず偏ったままです。
そして、ここからが本当につらいところです。
店長は、その偏りを見て見ぬふりができません。
「ルールは守られているから問題ない」と割り切れない。
でも、ルール違反をしているわけでもない人を責めることもできない。
結果として、判断はまた個別対応に戻ります。
お願い、調整、根回し、謝罪。
結局、シフトは人の関係性で回り続けます。
ここで店長は、二重に苦しくなります。
ルールを作ったのに解決しなかったという無力感。
それでも最終的な調整役を自分が引き受けているという現実。
さらに厄介なのは、
ルールを掲げた以上、「公平であるべき」という視線が強まることです。
「前はOKだったのに」
「他の人は休んでいるのに」
そんな言葉が、以前よりも鋭く刺さるようになります。
ルールがあることで、店長はむしろ“裁く側”に立たされます。
守れない判断をした瞬間、悪者になります。
説明できないとき、その責任はすべて自分に返ってきます。
ここまで来ると、多くの店長は思います。
「結局、何をやっても不満は出る」
「だったら今まで通り、静かに回した方がいい」
でも、それは解決ではありません。
先送りです。
ルールが悪いわけではない。
ただ、ルールだけでは、人の協力の差は埋められない。
そしてその差を放置すると、必ず誰かが壊れます。
必要なのは完璧な公平性ではなく、心理的納得感
ここまで読んで、「結局どうすればいいのか」と感じているかもしれません。
ルールを作ってもだめ。
人に頼り続けるのも限界がある。
では、何を軸にすればいいのか。
この章で伝えたいのは、とてもシンプルなことです。
飲食店のシフトに、完璧な公平性は存在しないという前提を、まず受け入れる必要がある、ということです。
全員が同じ条件で、同じ回数、同じ負担。
理論上は美しいですが、現場では不可能です。
生活リズムも価値観も違う人たちが集まっている以上、差は必ず生まれます。
問題は、その差があること自体ではありません。
問題は、その差が見えないまま、説明もされないまま放置されていることです。
協力してくれている人の行動は、たいてい評価されません。
シフト表に名前が多く載るだけで、理由は共有されない。
代打に出たことも、「助かりました」で終わる。
一方で、出られなかった人は何も失いません。
責められることもないし、不利になることもない。
この状態が続くと、現場には静かなメッセージが流れます。
「協力してもしなくても、結果は同じ」
これは、とても強力なメッセージです。
善意に頼る運営ほど、この空気が広がっていきます。
だから必要なのは、完璧な公平性ではありません。
必要なのは、なぜその判断になったのかを説明できる状態です。
言い換えれば、心理的な納得感です。
たとえば、
誰がどれだけ代打に入っているのか。
忙しい日にどれだけ協力しているのか。
それが、評価や希望シフトの通りやすさにどう影響しているのか。
すべてを数値でガチガチに管理する必要はありません。
でも、「見えている」状態にすることはできます。
協力が、偶然でも善意でもなく、「行動として認識されている」状態です。
ここで重要なのは、
これは罰を与える仕組みではない、という点です。
誰かを縛るためでも、追い込むためでもありません。
黙って支えている人が、報われない構造を終わらせるためのものです。
そして同時に、店長が「個人の感情」で判断し続けなくて済むためのものでもあります。
「店長が決めた」ではなく、
「こういう考え方で運用している」と説明できる。
それだけで、悪者感は驚くほど薄れます。
完璧じゃなくていい。
全員が100%納得しなくてもいい。
でも、理由がわかること。筋が通っていること。
それがあるだけで、現場の空気は大きく変わります。
多少の不満が出ても、前に進むという覚悟
どんなに丁寧に説明しても、どんなに筋の通った仕組みを作っても、不満はゼロにはなりません。
これは飲食店に限らず、人が集まる現場すべてに共通する現実です。
ここまで読んでくださった店長の多くは、すでに気づいているはずです。
問題は「不満が出ること」ではなく、
その不満を恐れて、何も変えられない状態が続くことだということに。
これまでのやり方は、一見うまく回っていました。
表面上はトラブルもなく、シフトも埋まっている。
でも、その裏では、声を上げない人が少しずつ削られていました。
そして店長自身も、毎回のシフト作成で小さな自責を積み重ねていました。
その状態を続けることは、優しさでも配慮でもありません。
ただの先送りです。
仕組みを変えるとき、必ず反発は出ます。
特に、これまで不利を感じていなかった人ほど声を上げます。
「なんでそんな管理をするんですか」
「前の方が自由でした」
その言葉に、心が揺れるのは当然です。
でも、その声だけが現場のすべてではありません。
これまで何も言わずに支えてきた人。
頼まれれば出てくれた人。
空気を壊さないように、黙って合わせてきた人。
その人たちは、たいてい何も言いません。
だからこそ、守られにくい。
多少の不満が出ても、前に進む。
それは、強さというより覚悟です。
全員に好かれることをやめる覚悟。
説明できる判断をする覚悟です。
大切なのは、
「私はこういう考え方で店を運営しています」と言えることです。
完璧じゃなくていい。
でも、ブレていないこと。
シフトは、単なる勤務表ではありません。
その店が、人をどう扱っているかが一番はっきり出る場所です。
善意に頼らない。
我慢を前提にしない。
そして、黙って支えている人を、見えないままにしない。
もし、今日この文章を読んで、
「次のシフトから、少しだけやり方を変えてみようかな」
そう思えたなら、それで十分だと思います。
店を回しながら、人も守る。
完璧じゃなくてもいい。
説明できる一歩を、踏み出すこと。
それが、これからの飲食店の現実的な選択肢です。
読んだあと、店長が最初にやるべき3つのこと
この記事をここまで読んで、
「考え方は腹落ちした。でも、現場で何をすればいいのか」
そう感じている人は多いと思います。
安心してください。
いきなり完璧な制度を作る必要はありません。
評価制度を全面的に変える必要もありません。
まずは、シフトが“感情”だけで決まっている状態から一歩抜け出すことが目的です。
最初にやるべきことは、とてもシンプルです。
評価の軸を、紙に落とすことです。
頭の中にある「この人はよく協力してくれている」「この人は自分優先だ」という感覚を、
そのままにしておくから、判断のたびに罪悪感が生まれます。
まずは、それを言語化します。
難しく考えなくていい。
立派な評価制度である必要もありません。
たとえば、
・忙しい日に出勤してくれた
・急な代打に応じてくれた
・希望が通らなくても文句を言わなかった
そういった「店が回るための行動」を、そのまま項目にする。
これが、評価シートの原型です。
ここで大事なのは、
評価シートは“査定”のためのものではないということです。
まずは、店長自身が判断に使うためのメモでいい。
誰が、どんな場面で、どれくらい協力してくれているのか。
それを可視化するだけで、シフトを組むときの迷いは一気に減ります。
次にやるべきことは、
その評価シートの存在を、スタッフに伝えることです。
完璧に説明しなくていい。
全員に細かく共有する必要もありません。
「忙しい日の協力や代打も、これからはちゃんと見て、シフトや役割に反映していきます」
この一言で十分です。
重要なのは、「見ている」「覚えている」「判断に使っている」という姿勢を示すことです。
これがあるだけで、
協力している人は救われます。
少なくとも、「無意味ではなかった」と思える。
一方で、自分優先で動いている人は、少しだけ空気を感じ始めます。
急に変わらなくてもいい。
最初は、それで十分です。
三つ目にやるべきことは、
評価シートを“武器”にしないことです。
数字で殴らない。
「あなたは点数が低いからダメ」と言わない。
この段階では、指導や矯正は目的ではありません。
目的はただ一つ。
店長が説明できる判断をすることです。
「なぜ今回はこの人の希望を優先したのか」
「なぜこの日はこの人にお願いしたのか」
それを、自分の中で説明できる状態を作る。
評価シートは、そのための土台です。
最後に、ひとつだけ強く伝えたいことがあります。
この取り組みは、
全員に好かれるためのものではありません。
全員を納得させるためのものでもありません。
黙って支えてきた人を、これ以上削らないためのものです。
そして、店長が罪悪感を抱え続ける運営から抜け出すためのものです。
まずは、小さな評価シートでいい。
次のシフトからでいい。
完璧じゃなくていいから、
感情だけで決めない一歩を踏み出してください。
それだけで、シフトの重さは確実に変わります。
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